2008年05月02日

もののあわれについて197

よろしくなりてあるほどに、宮「いかがある」と問はせたまへれば、女「すこしよろしうなりにてはべり。しばし生きてはべらばやと思ひたまふこそ罪ふかく。さるは、


絶えしころ 絶えねと思ひ 玉の緒の 君によりまた 惜しまるるかな

とあれば、宮「いみじきことかな、返す返すも」とて、


玉の緒の 絶えむものかは ちぎりおき しなかに心は 結びこめてき


よくなってきた頃、宮様が「気分は、どうですか」と、お尋ねになります。
「少しは、よくなりました。しばらくは、生きていたと思いますが、罪深いことでございます。それにしても、


たえしころ たえねとおもひし たまのおの きみによりまた おしまるるかな

宮様の、お出でが、絶えました頃、もう、命途切れてもいいと、思いました。
しかし、宮様を知りまして、再び、命が、惜しくなりました。

と、申し上げると、宮様は、「たいそうよいことです。返す返すも、嬉しいことです」と、仰せられ、


たまのおの たえむものかは ちぎりおき しなかにこころは むすびこめてき

あなたの命が、絶えてしまうものですか。
約束をし、契った二人です。しっかりと、心は、結び込めています。


かく言ふほどに、年ものこりなければ、春つ方と思ふ。十一月ついたちごろ、雪の降る日、


神代より ふりはてにける 雪なれど 今日はことにも めずらしきかな
御返し


初雪と いづれの冬も 見るままに めづらしげなき 身のみふりつつ

など、よしなしごと明かし暮らす。

このようにしているうちに、年も残り少なくなりました。
邸に、参るのも、春の頃に、なると、思っていました。
十一月の、初め頃、雪がいたく、降ります日に、


かみよより ふりはてにける ゆきなれど きょうはことにも めづらしきかな

神代から、降り続いた雪ですが、今日の雪は、ことに、珍しく思われます。

お返事

はつゆきと いづれのふゆも みるままに めづらしげなき みのみふりつつ

初雪が降ったと、毎年くるたびに、見ていましたが、目新しいことのないままに、わが身だけが、古びてしまいます。

など、歌のやり取りをして、暮らし明かしていました。


御文あり。宮「おぼつかなくなりにければ、参り来て思ひつるを、人々文つくるめれば」とのたまはせたれば、


いとまなみ 君来まさずは われ行かむ ふみつくるらむ 道を知らばや

をかしとおぼして、


わが宿に たづねて来ませ ふみつくる 道も教へむ あひも見るべく

つねよりも霜のいと白きに、宮「いかが見る」とのたまはせたれば、


さゆる夜の かずかく鴫は われなれや いく朝霜を おきて見つらむ

そのころ雨はげしければ、


雨も降り 雪も降るめる このごろを 朝霜とのみ おきいては見る


宮様からの、御文がありました。
「お目にかかることなく、ご無沙汰していますので、お訪ねしようかと、思ったのですが、人々が、漢詩を作る集いがありますので」と、仰せになりましたので、


いとまなみ きみこまさずは われゆかむ ふみつくるらむ みちをしらばや

暇無くて、宮様が、お出でにならないのならば、私の方から、伺います。
漢詩を作る道と、お邸への、通い道とを、知りたく思います。

宮様は、面白く思われて、


わがやどに たづねてきませ ふみつくる みちもおしえむ あひもみるべく

私の所へ、お出でなさい。漢詩を作る道も教えます。また、お逢いできるのですから。

いつもより、いたく、霜が白く置いていますので、宮様は「この霜を、どのように、御覧になっていますか」と仰います。


さゆるよの かずかくしぎは われなれや いくあさしもを おきてみつらむ

寒さの、厳しい夜に、羽を掻いて身じろぎしている、鴫は、私の姿なのでしょうか。
お訪ねにならない朝を、幾日も、明かして、霜を見たことでしょう。

その頃、また、雨が激しく降りました。


あめもふる ゆきもふるめる このごろを あさしもとのみ おきいてはみる

雨も降り、雪も降ります、この頃を、お出でになりませんので、起き明かしてばかりいて、朝の霜を、見ていました。


最後の歌。
雨も降る 雪も降るめる このごろを 朝霜とのみ おきいてはみる
上記の訳になるが、これは、相手ある歌である。

恋の切なさを、歌う。
朝霜とのみ おきいてはみる

それは、相手の愛情を確認する意味で、言うのである。
眠られずに、起きて、朝になり、そして、朝の霜を眺めるというのである。

このごろを 朝霜とのみ おきいては 君待つ我の ものぞかなしき
のように、続くものと、思う。

おきいては 君待つ我の かなしみは 今ひとたびの 逢瀬に解けむ

しかし、直接的、表現を避けるのである。

私の、戯れ歌は、そのまま、直接的であるから、単なる、戯れ歌である。

三十一文字に、託す言葉の世界は、実に、豊かである。
削り取った後の、花のような、言葉の深さを、有する。
一輪の花に、すべての花を、託す思い。

和歌の道とは、歌の道とは、もののあわれ、に、貫通するのである。




posted by 天山 at 00:00| もののあわれに第5弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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