2008年03月16日

もののあわれ185

ただ今、この門をうちたたかする人あらむ、いかにおぼえなむ。いでや、たれかかくて明かす人あらむ。


よそにても おなじ心に 有明の 月を見るやと たれに問はまし

宮わたりにや聞こえましと思ふに、たてまつりたれば、うち見たまひて、かひなくはおぼされねど、ながめいたらむにふとやらむとおぼして、つかはす。女、ながめ出だしていたるにもて来たれば、あへなきここちして引き開けたれば、


秋のうちは 朽ちけるものを 人もさは わが袖とのみ 思ひけるかな

消えぬべき 露のいのちと 思はずは 久しき菊に かかりやはせぬ

まどろまで 雲居の雁の 音を聞くは 心づからの わざにぞありける

われならぬ 人も有明の 空をのみ おなじ心に ながめけるかな

よそにても 君ばかりこそ 月見めと 思ひて行きし 今朝ぞくやしき

いと開けがたりつるをこそ」とあるに、なほもの聞こえさせたるかひはありかし。


ただ今、この家の門を、叩いて、訪れる人がありましたら、どんなに嬉しいでしょう。
私のように、夜を明かす人が、いましょうか。


よそにても おなじこころに ありあけの つきをみるやと たれにとはまし

他の所で、私と同じように、有明の月を見ていますかと、誰に尋ねれば、いいのてしょう。

文を、宮様に差し上げようと思いしまたので、お目にかけました。
宮様は、それを、御覧になり、読み応えのあるものと、思われました。
そして、女が、物思いに、浸っているうちに、返事をしようと、御文を、つかわしました。

女は、外を眺めつつ、物思いに、耽っていましたが、そこへ、宮様から、お返事がありました。
あまりの、早い返事に、張り合いのない気分になりましたが、開いてみます。


あきのうちは くちけるものを ひともさは わがそでとのみ おもひけるかな

秋のうちに、私の袖も、涙で、朽ちてしまいました。あなたも、わが袖のことばかりを、思っていました。

きえぬべき つゆのいのちと おもはずは ひさしききくに かかりやはせぬ

消えてしまう、儚い、露のような、命と、思わず、どうして、長寿の菊に、あやかろうとしないのですか。

まどろまで くもいのかりの ねをきくは こころづからの わざにぞありける

まどろむこともしないで、空行く雁の声を聞くとは、あなた自身の心が、招いたことです。

われならぬ ひともありあけの そらをのみ おなじこころに ながめけるかな

私以外にも、有明の月を、眺めて、私と同じ物思いを、していたのですね。

よそにても きみばかりこそ つきみめと おもひてゆきし けさぞくやしき

他所のいても、あなただけは、月を見ていられると、訪ねて行きました。その、今朝が、何と、惜しいことか。

開け放った門が、惜しく思います。と、書かれて、ありましたので、やはり、手習いの、文を、差し上げたかいが、ありました。


多くを、散文にせず、歌にして、思いを、伝えるという、風情である。

歌詠みとは、つまり、もののあわれ、というものを、そのままに、現すものである。
歌の、一々を、説明するまでもない。
月をみるやと たれに問はまし
と、相手に、問う心。
誰に問いましょうか。それは、あなたですと、言うのである。

これに、次の句を、つけると、
たれに問はまし 君ゆえに
と、なる。

当時の恋文の、直球である。

同じ月を、眺めているという、共感を、歌に、折込、折込して、重ねる表現の様である。

われならぬ 人も有明の 空をのみ おなじ心に ながめけるかな

われならぬ人
とは、あなた、である。

われならぬ人を、われは、思うのである。
われならぬ人は、われが、思う人。

歌詠みは、誰に、詠むのか。
それは、われならぬ人に、詠むのである。

多くの、和歌集があるが、それは、単に、独り言ではない。
われらぬ人に、詠むのである。

和歌を、御霊鎮めと、言う。
魂鎮めである。
歌詠みは、歌を詠むことで、魂鎮めを、行う。しかし、それは、また、われならぬ人に、呼びかける、魂振り、たまふり、になるのである。

魂鎮め、魂振り、とは、歌詠みの心である。

それが、日本の伝統であり、単なる、宗教的な、行法にあるのではない。
古神道という、行法を、語る人がいるが、それは、勝手な解釈、勝手な、思い込みである。
まず、歌詠みの心によって、それを、成すのである。
歌を詠まずして、魂鎮めも、魂振りも、無い。

言霊の、大和の国とは、歌詠みの国ということである。

言霊の幸はう国、それが、日本の伝統である。
歌を詠むこと、それが、そのまま、神言、祝詞になるのである。

言葉は、霊である。
霊は、タマ、魂になるのである。

恋は、魂を乞うことであると、言った。
日本の伝統は、魂乞いにあるということ。

魂乞い、すなわち、もののあわれ、である。



posted by 天山 at 00:00| もののあわれ第4弾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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